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十一面観音立像 聖林寺(しょうりんじ)
天平時代 木心乾漆造(もくしんかんしつぞう) 国宝

<観音さまの涙雨>

天平彫刻の傑作として知られる聖林寺の十一面観音像は、もとは大神神社(おおみわじんじゃ)の神宮寺(じんぐうじ)でありました大御輪寺(おおみわでら)の本尊で、三輪の神を仏の姿で表した本地仏(ほんじぶつ)として人々に崇敬されていました。 ところが明治初年の神仏分離によって寺が廃されることになり、大御輪寺の住職を兼務していた聖林寺の住職がこの像を引き取ることになりました。
やがて人々が見送る中、丁重に荷車に乗せられた観音像が三輪と桜井の間を流れる初瀬川(はつせがわ)まで来ると、おりしも立ちこめた雲からはらはらと小雨が降りかかる。 人々は雲を見上げて「観音さまの涙雨じゃ」と言いながら、その日は大急ぎで大御輪寺に引き返し、翌日改めて聖林寺へお送りしたという古老の話が伝えられています。

写真・解説/小川光三(飛鳥園)